【制作実績】北九州市立美術館「コレクション展Ⅱ 版元からみる浮世絵の名品」関連映像を制作しました

静止画の奥にある「気配」を再現する
北九州市立美術館で開催された「コレクション展Ⅱ 特集 版元からみる浮世絵の名品」にあわせ、同館が所蔵する葛飾北斎や歌川広重、歌川国芳らの名作をもとにしたアニメーション映像を制作しました。
本プロジェクトのオーダーは、単なる展覧会の短期的なPRにとどまりません。 「展示期間が終わっても、恒久的に美術館の広報アセットとして活用できる映像にすること」 「実は、歴史的にも著名な浮世絵が北九州市立美術館に所蔵されている事実を広く知っていただくこと」 「コレクションを同館へ大量に寄贈してくださった寄贈者様の想いに応え、多くの人に作品を届けること」という、美術館側の深い意思と目的が底流にありました。
After Effectsでの挫折と、動画生成AIの選定
当初は、手作業で人物や背景を切り分けて動かす「After Effects」を用いたモーショングラフィックスの手法で試作・検討を行いました。しかし、この方法では工数が膨大になり、予算の枠を大幅にオーバーしてしまうことが判明しました。
限られた予算と短い期間のなかで、最も効果的かつクオリティの高い映像表現を実現するため、私たちはすでに別の自主検証プロジェクトで検証し実績を持っていた、動画生成AI「Kling AI」を用いたAI協働プロセスを選択しました。
原画のハルシネーション(勝手な創作)との闘い
歴史的な「美術作品」を扱うにあたり、最大の難所は「AIが原画にないものを勝手に描き出してしまうこと」でした。
動画生成AIは、放っておくと人物の顔や輪郭線をぐにゃぐにと不自然に変形させたり、画面上に存在しない物体を生成したりしてしまいます。これは「作品の品格を守る」という観点から絶対に許されないNG事項でした。
Kling AIのプロンプトにおいて、何を描かないかを指定するネガティブプロンプトはうまく認識されないことが多く、パラメータを極小に絞り込みながら、意図しない描画を徹底的に排除する泥臭いリテイクと生成を繰り返しました。大量のボツ動画(生成ロス)を出しながらも、手作業でキーフレームを打つAEでの制作と比較して、圧倒的なスピードでクオリティの境界線を超えることができました。
「高精細デジタルアーカイブ」という見えない資本
このプロジェクトを技術的に成立させた最大の要因は、美術館側が過去にコストをかけて蓄積していた「高精細画像データ(アーカイブ)」の存在でした。
縦長が多い浮世絵を、映像標準である横長(16:9)のフルHD(FHD)画角に再構成するためには、部分的に超クローズアップ(拡大)して画像を切り出す必要がありました。美術館が撮影していたデータが非常に高解像度であったため、拡大しても画質が崩れることなく、AIによるアニメーション処理に耐えることができました。もしこれが一般的な解像度のデータであれば、企画自体が成立していなかったはずです。
「興味先行」の先行研究がもたらす価値
まだ動画生成AIのビジネス活用が一般的ではなかった時期(約1年前)の制作だったこともあり、納品時には美術館の担当者様に「これは話題になる。館内でも上映したい」と大変驚かれ、喜んでいただくことができました。今回展示されない作品アーカイブも活用したことで、展覧会の会期終了後も長く使える美術館の広報資産となっています。
仕事を受けてから初めて新技術を学ぶのではなく、日頃から「純粋な興味と好奇心(興味先行)」で時間とコストを払い、少し先の技術を先行研究していたからこそ、このチャンスに対して即座に最適解を提示することができました。私たちはこれからも、技術の奥にある「思想や文化」を尊重しながら、少し先の驚きと喜びを届けていきます。
映像は北九州市公式YouTubeチャンネル「すしプレス」にて公開中です。ぜひご覧ください。